スカイツリーからの帰り道に偶然「たばこと塩の博物館」を見かけ、足を踏み入れた。JTが運営している博物館らしく、隣には巨大なJTの倉庫がそびえている。本来ならたばこ専門の博物館でもJTとしては事足りるはずだが、あえて塩を並べているのは、未成年でも足を運びやすくするためだろうか。そんな邪推を抱きつつ館内に入ると、たばこ文化を愛しているであろうサブカル系の若者たちの姿が目立つ。禁煙して久しい私も、ここなら場違いではなさそうだ。

2階の特別展では、写真家・片平孝氏による世界の塩を追った旅の写真展が開催されていた。印象的だったのは、エチオピアの塩を含んだ黒い泥を運ぶ男の姿を捉えた写真と、添えられた一節だ。
「生命維持に不可欠な塩は、上手いかまずいかよりまず先に、そこに有るか無いかが大問題となるのだ」
飽食の都市に暮らす私にとって、塩はいつでも手に入る安価な調味料でしかないが、ある場所では「生きるために泥まみれになって手に入れるもの」なのだ。一瞬言葉を失う。

塩の常設コーナーでは、世界各地の製塩法が紹介されていた。それだけでなく、塩がいかに人間にとって不可欠であるかを示す歴史や、科学的な解説も充実している。一番興味を惹かれたのは、ポーランドのヴィエリチカ岩塩坑にある「聖ギンガ像」のレプリカだ。なんと本場ヴィエリチカ産の岩塩を削り出して作られているらしい。ヴィエリチカ岩塩坑といえば、1978年に最初に登録された12の世界遺産の一つ。世界遺産好きとしては、この展示にはかなりテンションが上がった。いつかポーランドに行ったら必ず訪れたいと思っていた場所だったからだ。

他に塩のエリアで目にして驚いたのは、日本が実は塩に恵まれていない国だという事実だ。これだけ海に囲まれているのになぜ、と思うが、岩塩や塩湖が存在せず、雨の多い気候では天日も難しいかららしい。確かに、岩塩ならブロックを削るだけで大量に確保できるが、海水を煮詰める日本の塩づくりは燃料も手間も膨大にかかる。伯方の塩、ありがとう。
3階のたばこコーナーは、メインだけあって壮観だった。メキシコのマヤ文明のパレンケ遺跡の再現をはじめ、歴史的な資料やアンティークの喫煙具が大量に展示されている。特にタバコのパッケージ展示はレトロ好きにはたまらず、写真を撮る手が止まらない。日本だけでなく海外のパッケージも網羅されており、国立民族学博物館を思い出した。


もう一つ興味深かったのは「タバコカード」の展示だ。19世紀半ばのアメリカで、脆いパッケージを補強するために添えられた芯紙に、女性の絵などをプリントしたのが始まりだという。それが今でいうトレカのようにコレクション対象になったそうだ。もし今の時代に人気アイドルで同じことをやればタバコの売り上げは爆発するだろうが、そんな暴挙をさせないために今のJTがあるのかもしれない。


ミュージアムショップには、展示に関する書籍はもちろん、世界の様々な塩や本格的なパイプ、少し憧れてしまうシガレットケースなどが並び、小規模ながら充実していた。
ただ、やはりたばこと塩を専売だったという理由のみで一括りにしていることには最後まで引っかかった。塩は必需品であり、たばこは嗜好品、ひいては依存性が高く体に害もある。塩については科学的に人間の体にどのような影響を及ぼすか、なぜ必須なのかを説明するコーナーがあるにもかかわらず、たばこについては人間にどのような効果や害を与えるのかという記載は見当たらなかった。恣意的な非対称性を感じる。
JTの施設のため、当然と言えば当然だが。


【参考】たばこと塩の博物館:https://www.tabashio.jp/
