彼方に見えるあの塔は、本当にスカイツリーなのだろうか

2024年の11月から、墨田区は錦糸町に住んでいる。 墨田区といえばスカイツリーのお膝元。錦糸町の街を北へ向けば、いつもそこには巨大な塔がそびえ立っている。歩いて行けそうな距離だからこそ、いつでも行ける。いつか歩いて行ってみよう。そう思って「いつか」の棚に上げ続けていた計画を、昨晩、今日実行に移すと決めた。

スタート地点は錦糸町駅北口のバーガーキング前。 ルールはひとつ。地図は見ない。3インチのミニスマホ「Jelly2」に昨晩ちまちまとダウンロードしておいたプレイリストだけを心の頼りに、歩き始める。

スタート地点
スタート地点からの写真

歩き出してすぐ、同じく北を目指す外国人の男性二人組を見かけた。彼らもあの塔を目指しているのだろうか。

10分も歩くと、「スカイツリーまで900m」という看板が目に飛び込んできた。え、もう着くのか。遥か彼方の聖域だと思っていたのに、現実はあまりに地続き……。

Amazon Musicから流れるプレイリストの一曲一曲が、春の陽光の中でいつもより大切に響く。最近は外を歩く時も、大して頭に入らないYouTubeやPodcastを垂れ流しにしていた。音楽だけに向き合うこの時間は、ささやかな、けれど確かなデジタルデトックだ。

さらに10分。スカイツリーが視界いっぱいに広がった。着いちゃったじゃん!
それもそのはず、錦糸町から押上まではたった一駅だ。何年もバケットリストに温めておくような目標ではなかった。けれど、私の中の何かが、ずっとこの「たった一駅」の移動を拒んでいたのだ。ちょうどその時、耳にCreepy Nutsの『のびしろ』が流れ込んできた。
「これでスカイツリーも私のものだ!」と、妙な全能感に包まれる。

Jelly2で音楽を聴くとWalkmanを思い出した

ソラマチのレストラン街に入り、事前に食べログで評価を調べ、期待に胸を膨らませていた1,500円のランチを口にした。……が、驚くほどまずい。苛立ちながら胃に流し込み、口直しを求めてソラマチ内を彷徨っていると、目当てにしていた店が別の場所にあることに気づいた。同じジャンルの店が隣接していたのだ。そんなアホな自分自身が、少しだけ微笑ましく思えた。春だから。

ウィンドウショッピングの最中、「アランジアロンゾ」というキャラクターものの雑貨店に出会った。ゆるい線に、媚びない表情の動物たち。その絵柄に一目で心を射抜かれた。ポーチやマスキングテープ……。物欲が一気に脳内を支配するが、私はミニマリストを目指す身だ。15分ほど狭い店内を右往左往し、葛藤の末にステッカー3枚だけを購入して店を後にした。帰宅してから調べて驚いた。「アランジアロンゾ」は関西のテレビ番組『ちちんぷいぷい』や『せやねん』のキャラクター、そして愛・地球博の「モリゾーとキッコロ」を手がけた姉妹デザイナーだったのだ。一目惚れだと思ったそれは、かつて私の血肉となっていた記憶との再会だった。惹かれたのは必然だったのだ。

購入したステッカーたち

続いて、昨晩リサーチしておいたカフェへ。今度は入念に確認する。食べログ3.5超え。しかし、実際に入ってみるとこれといった特筆事項のない店だった。そこで30分ほど読書をして、店を出る。

八朔とクリームチーズのマフィンとアイスカフェラテ

本屋で少し立ち読みをしていると、noteとAIを駆使した副業を勧める本に、こんな一節があった。

「人生観についてのポエムのような記事はいつまで経っても読まれません。発信する以上、読者が求めている情報をわかりやすく書く必要があります」

クソくらえだと思った。

さらに歩いていると、Jelly2の背面に貼るのにベストなサイズのステッカーを見つけた。アランジアロンゾにはなかった、極小のサイズ。ロルバーンに「無限」と書かれたそのステッカーは、ノートに広げられる夢は無限であることを思い出させてくれるようだ。

無限

3時間ほどソラマチに滞在し、帰路につく。スカイツリーに来たのは初めてではないし、特に大きな収穫があったわけでもない。どこか不完全燃焼の感覚が残る。歩いて行ける距離にあるという安心を得た引き換えに、特別さを感じなくなってしまったのか。しかも昨晩のリサーチで、行く前からある程度消費し終えていたような感覚もある。他人の評価で行く店を決めるのは、ひとりの時は今後控えようかな。

スカイツリーといえば友人の発言を思い出す。「東京タワーには感動を覚えるが、スカイツリーは安っぽい」と言うのだ。その気持ちは分からなくもない。けれど、この塔もいつか、誰かの血肉となるカルチャーに昇華される日が来るのではないか。

だって、あのヴェンダースも映像に収めた塔なのだから。今日、スカイツリーを目指していたあの外国人二人組も、もしかすると『PERFECT DAYS』の主人公の日常を照らしていた、あの光としての塔を求めて歩いていたのかもしれない。

そんなことを考えていると、「たばこと塩の博物館」の看板を見つけた。 存在は知っていたが、こんな近所にあったとは全く意識していなかった。HPで入館料が300円であることを確認し、私は迷わず足を踏み入れた。

(To be continued…)