凄惨な事件と逃亡で世間を騒がせた市橋達也。手記では、英語や映画を好む感性があり、自分を客観視できる一面が垣間見られた。また、恵まれた出自の一方で、一度頭に血が上ると自制が効かなくなり、相手に危害を加えてしまうという彼の危うい性格も記されていた。
犯罪者の手記を読むのは初めてだったが、決して理解不能な狂気や精神的な疾患があるわけではなく、本質的には「自分と同じ人間」なのだと感じ、かえってそれに恐怖を覚えるのと同時に死刑反対の考えも強まった。
彼は「無敵の人」ではなかったので社会が彼の犯罪を事前に阻止することは難しかっただろうが、大学卒業後に劣等感を抱えたまま社会へ出なかったことが、事件の遠因となったのではないか。そう考えたのは、彼が逃亡中の飯場で働き、皮肉にもそこで初めて社会性を身につけ、周囲と喧嘩になってもある程度の自制が効くようになっていたからだ。
映画を英語字幕で鑑賞し、気に入ったセリフはメモ帳に残していたらしい。この2つは私にも響くものがある。
The things I owned ended up owing me.(持っていたものが自分を束縛していた)
I found freedom. Losing all hope was freedom.(絶望の果てに自由がある)
市橋達也は無期懲役判決を受け、長野刑務所に収監されているらしい。無期懲役犯は平均32年で出所する。あと17年ほど、65歳頃に娑婆に出てくることになる。また西成のドヤで生活するのだろうか、沖縄の無人島でサバイバルするのだろうか。そこにあるのは絶望か、はたまた自由か、罪を償ったその先でまた聞かせて欲しいものだ。
